Chikirinの日記さんの難民関係の連載のおかしなところを逐一指摘してみる 第六回
この連載は、「Chikirinの日記」さんの難民関連の連載のおかしなところを逐一指摘する連載第六回目です。
Chikirinさんは現在第八回まで連載され、この連載は完結されています。
私のこれまでの連載はこちら
こんかいはちきりんさんの連載第6回のおかしなところを探していきます。
今回は偽装難民がテーマです。
難民と認定された場合、認定した国に在留することができます。
発展途上国で生まれ育った人でも、先進国に合法に滞在することができます。
難民にはノン・ルフールマンの原則というものがあり、よほどの犯罪を犯さない限り、その国から追放されることもありません。
また、EUなどの先進国では、就職支援などの援助を受けれることも多く、さらに就労も原則自由です。
社会保障に関しても、内国民待遇が与えられます。
こういった待遇は、難民がどういう存在か考えれば、かなりの程度与えられて然るべきでしょう。
自由や平等、人権といった、私たちが奉ずる価値規範への挑戦の結果として、難民は難民になったわけです。
また、本来保護すべき国自身が迫害していたり、保護する能力がなかったりで、誰からも尊厳や権利が保障されない状況にあるため、誰かが手を差し伸べなければならないからです。
しかし一方で、誤解を恐れずに言えば「おいしい」待遇であることも確かです。
それ故か、自身を難民と偽る偽装難民が後を絶ちません。
ですので
母国より豊かな国で暮らしたいと考える偽装難民はすべての先進国にやって来てます。
でも G7 先進国の中で、ここまで難民支援に消極的なのは日本だけです。
ドイツやアメリカにだってたくさん偽装難民は来てるはず。
ちきりんさんのこの認識は(日本が消極的かどうかは評価の問題ですのでさておき)正しいでしょう。
ただ、偽装難民に関する状況は、すべての先進国で似通っているとも限りません。
まずはG7の難民認定数と、難民認定率を確認しましょう。ちきりんさんが引用しているJARの資料の数字です。
2015 | 認定数 | 認定率 |
---|---|---|
ドイツ | 138,666 | 59% |
米国 | 23,361 | 77% |
フランス | 21,287 | 22% |
英国 | 15,376 | 34% |
カナダ | 9,171 | 68% |
イタリア | 3,573 | 5% |
日本 | 27 | 0.6% |
以前も書いてありましたが、日本では難民と認定する以外に人道に配慮し在留を許可する補完的な保護を行っています。
その数も含めた最終庇護数は106人となり、庇護率は2%強になります。
それでもまぁ、イタリアの半分程度ですね。
ところで、法務省は保護しなかった残りの98%について、どのような理由で保護を求めていたのか、主な申し立て事項を公表しています。
「主な」と書いてありますので、重複はしていないと思われます。
申し立て事項 | 割合 |
---|---|
本国における政治的活動を理由に,対立政党の構成員や関係者等から危害を加えられるおそれ | 約29% |
借金問題や遺産相続など主に財産上のトラブル | 約23% |
地域住民や交際相手等との間に生じたトラブルや暴力事件等 | 約13% |
本国あるいは本邦における政治的活動を理由に本国政府から迫害を受けるおそれ | 約7% |
民族的少数派であることに起因する差別・迫害のおそれ | 約5% |
本国での生活苦や本邦での稼働継続希望など個人的事情 | 約5% |
すべて足すと82%になります。残りの18%に関しては公表されていないため不明です。
黒字で強調してあるのが、どう考えても難民じゃない人です。これだけで41%を超えます。公表されていない分の18%の内訳次第では、難民にかすりもしない人が半分を超えることになります。
これらの人を除いた時点で、日本での難民認定率は、ドイツ(59%)、アメリカ(77%)、カナダ(68%)の認定率を下回ることになります。
いえることは、日本に来る偽装難民の割合は、ドイツ、アメリカ、カナダより確実に高いということです。
日本以外のG7が人道的というより、むしろ欧米ってザルなんじゃ・・・と一瞬思いましたが、本当にザルかどうかはわかりません。
さて、さらに日本に来る偽装難民について突っ込んで見ていきましょう。
でもその前に、世界における難民の状況について、UNHCRが公表しているGlobal Trends 2015から確認しておきましょう。
ちなみにですが、UNHCRは難民条約に規定されている条約難民のほかに、内戦や紛争で避難している人などの強制移動させられた人にも支援を行っています。
広義の難民ということですね。資料での数字は、この強制移動させられた人数と考えていいと思います。
まずは、人数の推移
2012年ごろから急増しています。シリアでの内戦が主な原因と言われています。
では、どこの国の人が難民になっているのでしょうか。
シリア・アフガニスタン・ソマリアの上位3ヶ国で54%を超えます。
中東2ヶ国、アフリカの失敗国家が6ヶ国、アジアではミャンマーのみ。コロンビアは南米ですが、内戦状態が継続しています。
一方日本ではどうでしょうか。まずは、難民認定申請数の推移を見ましょう。
2010年ごろから、2年で2倍のペースで増加しています。どこの半導体だよ。
このまま行くと今年は1万件を超えるでしょうか?
OK。シリアの内戦とかいろいろあったし、申請数が増えるのも仕方ないよね。
アフリカとかからもいっぱい申請されているんだろうね。
その予測は裏切られます。
法務省は、年ごとに国籍別申請者数を公表しています。
面倒くさいので2010~2012年はTOP10のみ、2013~2015年はTOP25を集計して、グラフにしてみました。
ただ、国の数が多すぎて見づらくなったので、申請数が少なく、動きがあまりない国は泣く泣く省いています。
シリア・アフガニスタン・ソマリアはほぼほぼランキング圏外でした。仕方ないので表には入れていません。
アフリカ諸国も申請数が少ないので、ほぼほぼ省きました・・・。
UNHCRの資料でランキングに入っている国のうち、日本にそれなりに来ているのはミャンマーぐらいです。
見ていると色々面白いですね。
ミャンマーは毎年400人前後で推移して、長らく首位をトルコと奪い合う展開だったのですが、去年は4位です。
でも実は、去年倍プッシュで800人ほどに申請数が急増しています。それでも4位。
民主化の前後で弾圧でもあって急増したのでしょうか。割と今更感があります。
トルコはいい感じの上昇トレンドです。これが株なら長期保有を検討してみたいですね。
圧倒的1位はネパール。全くピンときません。
割とどうでもいい豆知識ですが、インド料理店のコックは大体ネパール人です。
インドネシアは2013・2014年は10数名だったのが2015年は969名と激増し、一気に2位につけました。すごい追い足です。何かあったのでしょうか。
調べてみると2014年12月1日に、事前登録制による査証免除が始まりました。まさか・・・まさか・・・
このようにいろいろ見ていると、日本はやって来る難民すらガラパゴスという訳の分からない結果になってしまいました。
というか、世界とのトレンドから離れすぎていて、果たして本物の難民が日本にやってきているのか、結構な疑念がわきます。っていうか、ほとんど来てなくないかコレ
とはいえ、外側から数だけ見ていたのでは中々、偽装難民の実情はわかりません。
そこで、実際に審査に携わっている人々の声を聴いてみましょう。
新潮は保守系の雑誌ですので、割り引いて考える必要がありますが。
コメントを寄せたり、記事を執筆しているのは、難民審査参与員を務めているNGOの方々や研究者です。
難民審査参与員は、異議審という難民審査第2ラウンドで実際に難民認定申請した人にインタビューし、認定するか否かについて法務大臣に意見を述べる立場にあります。
で、実際にどういうことを言っているかというと
- 私自身、これまでメディアなどを通じ、日本の難民受け入れについて「大きな問題がある」、「あまりにも消極的だ」と批判してきたので、なんとしても受入数 を増やしたいとの思いで、3年前、難民審査参与員を引き受けたのだった。しかし、そこで分かったことは、「5000人が難民申請して認定されたのがわずか 11人」という2014年度の数字だけを見て「難民に冷たい日本」、「人権を尊重しない法務省」と言うのは明らかに誤解であるということだ。
- 3年間で100件以上の面接をしたが、認定者は未だ「ゼロ」
- 800人ほどの審査をしましたが、認定したのはごくわずか
推測です。これは推測なんですが、日本には本物の難民がそもそもほとんど来ていないんじゃないでしょうか。
仮に日本で難民認定申請した人をEU基準で審査したとしても、どの程度の認定率になるかは、相当悲観的にならざるをえない気がします。
イタリアの5%という認定率ですら、超えることは難しいかもしれません。
ですので
前に書いたように、日本の難民認定基準は他国に比べて理不尽なほど厳しい上、結果がでるまで平均 3年、中には 10年かかるコトもあります。
でも何より根本的な問題は、日本の姿勢が「困っている人を人道的な見地から助ける」という姿勢ではなく、「偽装難民が入ってこないよう厳しく審査する」という姿勢に偏りすぎていることです。
これって、あまり真面目に受け取れません。
偽装難民が多すぎることで審査が長期化し、本物の難民に対する支援が遅れ、困ることになるからです。
一応、公平を期すると、難民の審査している法務省入国管理局はそもそも外国人を入国させなかったり、強制送還することを業務としていますので、難民であっても日本から返そうとするバイアスあるよね?という批判は多いです。
ここからちきりんさんは本題に入っていきます。
この問題って、次の 2点で生活保護に対する批判とすごく似てます。
1)不正が見つかると制度自体の是非論につながる
2)自分に責任がある人は助けなくてよいという意見がある
生活保護の不正受給は金額ベースで0.5%、世帯数では2.2%です。
人道支援はもちろん必要です。ただ、不正率が最低でも4割、もしかすると9割とか超えてしまうあるかもしれない状況では、一律に比較するのは不相応です。
制度の是非論の前に、制度自体が不正により機能不全に陥ってしまう可能性だってあります。
制度設計に誤りがある可能性も高いでしょう。
小学生でも無い限り、「一切の不正のない支援などあり得ない」ことくらい理解できますよね?
「不正のある支援は絶対に許せない!」と主張することは、「一切の支援制度なんて無くていい!」と言ってるのと同じなんです。
(中略)
人道支援に関しては、目の前で困ってる人をなんとか助けようという話がまずあって、その上で、できるだけ不正が起こらない制度を作りましょう、という順番です。
ちきりんさんは、小学生でもない限り理解できる話をされましたので、私は中学生でもない限り理解できる話をしたいと思います。
ある制度で、その制度が守りたいものと、不正の率はトレードオフです。
人道支援を拡充しようとすればするほど、不正の割合は増えます。
不正を厳しく取り締まれば、相対的に支援の枠は減らさざるをえません。
コストと人手をかければ、緩和することはできるでしょう。でも本質的にこの二つは並び立ちません。
例えば、生活保護は、困窮している人に素早く扶助を届けるため、原則14日以内に保護を行うかどうか結論を出さなくてはいけません。
今日のご飯すらどうしていいかわからない人もいるからです。
ここでもっと扶助を素早くするために、7日以内に保護を行うかどうか決定しなければならないことにしましょう。
不正受給はふえますよね。ほとんど調査が困難な中、扶助を行うかどうか決めなければいけなくなるからです。
難民では、以前、欧米と日本に違いで、難民の立証責任に「灰色の利益」というものがあると書きました。
客観証拠がなくても、きちんと説明できていたらもうそれだけで難民と認定しようということで、欧米では認められていますが、日本では認められていません。
はっきり言います。欧米で難民と認定されている人の結構な割合は偽装難民です。
難民に必要な立証責任が6割なら、2~3割は偽装難民です(数字はたとえ話ですよ)。
これは
人道支援に関しては、目の前で困ってる人をなんとか助けようという話がまずあって、その上で、できるだけ不正が起こらない制度を作りましょう
という、繊細な、消極的な不正の容認とは異なります。
むしろ、積極的に不正を容認することで人道支援を完遂しているんです。
人道支援か不正を排除するか、このトレードオフで、人道支援に極振りしているわけです。
日本の認定基準を欧米並みに押し上げろというなら
「灰色の利益」が認められた人は、全員偽装難民でも構わない、ただしその中に一人でも本物の難民がいれば
と言い切れなければならないんです。
あなたは言い切れますか?そう言い切れる日本人はあまり多くないと思います。
(断っておきますと、私は灰色の利益は認めるべきと思っています)
2番目の「自分が悪かった人は助けなくていい」というのも、人道支援には適用されません。
(中略)
難民に関しても、「紛争を起こしたのは欧米なんだから、欧米が助ければいい」とか言う人がいます。
欧米はもちろん助けてるでしょ!?
だからって、それが理由で日本が何もしなくていいという話にはならないんです。
これは同意します。
ただ、欧米がもちろん助けているかどうかは、第一回で触れたとおり異論があります。
さて、
難民認定を担当する法務省は、最近、制度を手直ししようとしてます。
「難民認定制度の運用の見直しの概要」(2015年9月)
これを読む限り法務省としては
1)偽装難民を排除しないと職員の手が足りなくなる上に認定率が下がり、内外から言われなき非難を受ける。なので偽装難民を手早く分離、処理したい
2)真の難民の認定を正確かつ迅速に行うための、担当者のスキルや知識の向上を計りたい
3)偽装難民と真の難民の区分を早めに行えるよう、プロセスを変更したい
(以上、ちきりんによるサマリー)
と思ってるよーなんですが、
実際に難民認定の審査業務を行っているのは、法務省入国管理局です。
入管の業務は
- 出入国審査
- 外国人の在留管理(いわゆるビザの更新や、永住許可も含みます)
- 強制送還(調査・内偵・摘発等も含めて)
- 難民認定
です。
難民に関する、入管の現在の問題意識は
- 不正多すぎて、制度が機能不全起こしかけてワロリンヌ
- 圧倒的人手不足
です。
1については、難民認定制度に関する専門部会による。難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)を見てみれば、大体のイメージが掴めます。
最近において申請数が急増する原因の一つとして,難民条約上の迫害理由に当たらない事情を申し立てる案件や,同じ事情を繰り返し主張する複数回申請案件,更には退去強制令書の発付を受けた者が単に送還を免れようとするための手段として申請を濫用する案件が見受けられることが挙げられる。これにより,適正・迅速な案件処理に支障を来たす状況となっており,真の難民を迅速かつ確実に庇護するために,効果的な処理のための方策が求められている。
一次審査は平均処理期間6.9月ほど、異議審は平均3年ほどのようです。
なんでも6回も難民認定申請している人もいるだとか。
申請数が5年で6倍になっており、そのうち結構な割合が偽装難民ということで、危機感があるのでしょう。
2については、インバウンドの増加も見逃せません。
は?と思う方もいらっしゃるでしょうが、同じ役所が審査しているんですね。
5年で2倍以上に増えています。
それに対する職員数は入管白書より
じわじわって感じですね。
難民認定の審査ですと、経験や知識がある職員が必要でしょうから、その辺りも苦慮しているんじゃないでしょうか。
偽装難民が多いのは、そもそもの制度設計も、もしかしたらまずいかもしれないということで、難民認定制度の見直しを進めているわけですね。
例えば、正規の在留資格があるときに難民認定申請した場合、特定活動という在留資格で適法に在留できるのですが、6か月経つと就労が可能になります。
で、日本で働きたい人がこの制度を悪用しているかもしれないってことなんですね。
難民申請をした後に日本で働いてると、「働いてるじゃないか! 偽装難民だ!」とか言う人がいるんですけど、
審査には 何年もかかかるんだから、働くのは当たり前です。
ルール上も(申請後、半年後からは)認められてるし、そもそも働かないと食べていけません。
諸外国でも、6か月というのは結構いい条件です。
また、生活困窮条件をつけたり、また、EUでは国内労働市場を守るための制限を付けることも許されています。
難民認定制度に関する専門部会のこの議事録なんか結構赤裸々です。
3ページほどですので、興味ある方はのぞいてみてください。
そして
この制度変更に関して法務省が広く国民の意見を聞くためパブリックコメントを受け付けたところ、
なんと! 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がコメントを寄せてきました。
UNHCRの見解が出されたのは、7月です。「難民認定制度の運用の見直しの概要」は9月です。
しかも、UNHCRの見解は、第5次出入国管理基本計画案に対してのもので、最終版には結構UNHCRの見解も反映されています。
よく読めばわかるはずなのに、どうしてこうなった。
UNHCRの見解では、
法務省が現在直面している喫緊の課題とされる事項に対応するために新しい施策の導入を検討していることは理解するものの、
理念としてのゴールを示しているわけですね。
UNHCRは、専門部会にもオブザーバーとして出席しています。
ですので、入管の現状についてもかなりの程度理解したうえでコメントしているはずです。
まぁ
法務省「いろいろ辛いっすわー何とかしたいっすわー」
UNHCR「解るけど、とりあえずここはもう少し頑張ろう。そして高みを目指して行こう」
みたいな。
おそらくちきりんさんが想像している以上に、法務省とUNHCRはコミュニケーションをとっています。
ですので
UNHCR の意見はざっくり言えば、「これでは人道支援ではなく、あまりにも偽装難民排除に重きが置かれすぎ!」というもの。
サミットの議長国まで務める立場にありながら国連の機関にこんなこと言われるなんて、ある意味ほんとすごいです。
この辺りはちょっと経緯を踏まえきれていないんじゃないかなと思います。
最後に
最後にもうひとつ。
日本で偽装難民の可能性が高そうなのは、技能実習生としてやってきて難民申請してる人でしょう。
実際、最近はこの立場からの申請が急増してるんで、おそらく法務省も困ってるんだと思います。
んが、
実はこの外国人技能実習生という制度自体(難民から話がそれるので詳しくは書きませんが)問題の多い制度で、人権侵害ではないかと海外から指摘されてます。
なので私としては、もっともっと技能実習生からの偽装難民申請が増え、この制度(技能実習生制度)がどんな制度なのか、多くの人に知られたほうがいーんじゃないかとさえ思ってます。
ここまで読んでいただけた方なら、これがどれだけナイーブでデリケートな意見かお分かりいただけるかと思います。
次回に続きます。